【まずは結果報告から】
 気が付くとあれからもう2ヶ月も経っておりました。「やっと終わった」という達成感と「こんなはずではなかった」「もう少し予算があれば」という悔しさが複雑に入り交じって気持ちの整理がなかなかつかなかったためと、脳味噌&休日全てをソーラーカー作り優先にしてきたせいで、それまでおろそかにしてきた諸々の雑事に追われて今日までまとめが延び延びになってしまいました。関心を持ってこのページを見守って下さった皆様、本当に申し訳ありません。

 くどいようですが金策には常に苦労し(←もともと“予算”というものがないのだからあたりまえですが)その都度妥協を強いられ、当所の志と目標からはかなり離れざるをえませんでした。今回製作したソーラーカー(DON PAN号)は“拾い物”と“もらいもの”と“ポケットマネー+α”の集大成と言っても過言ではなく、デキは正直なところプアーな印象を拭えません。またメインとなる太陽電池も模型(ダミー)の湿式太陽電池を搭載する形となりました。動力性能としては展示の前夜にようやくバッテリーでの自力走行が可能なまでに仕上がりましたが、当日になって前輪サスペンションが傷み、走行を披露するまでには至りませんでした。従って現状では「世界初の湿式太陽電池搭載ソーラーカー」の域には達しておらず、「世界初の湿式太陽電池搭載ソーラーカーを目指したモデルカー」の段階に留まっております。

 かかる製作者側のいろいろな都合と思惑はさておき、研究所公開は来場者数1100人と盛況に終わり、展示した車と湿式太陽電池についても概ね好意的な評判を頂きました。「2号機を出してほしい」と言う要望もいくつかあり、期待に沿うべくいろいろと思案中です。

【そもそもの初めは】
 私が日頃残念に思っていることの1つに、“東北大学人はなかなか自分の土俵以外で試合をしたがらない”というのがあります。ソーラーカーの大会にしても、どこかのTVで毎年やっている鳥人間コンテストにしても東北大学からの挑戦者というのはなかなかお目にかからず、片や本筋の研究活動を見ても自分の所属する学会や分野を越えて活躍する人というのが少なく寂しい限りです。一般人が思い浮かべられる東北大学出身者と言ったら、魯迅までさかのぼることでしょう。そんな折、普段の研究活動を分かり易く一般に公開する機会を与えられ「これはもう、やるしかない」と。展示内容は研究室毎に提案することになっていましたが、とにかくスケールの大きいことがやりたいという俗人的な欲求に駆られた私は最初から“人が乗って動かせる”ソーラーカーしか頭にありませんでした。教授にはあたかも模型を作るような身振りでソーラーカーをやるという説明をして了承を取りつけ、密かに素早く製作を開始し、あらかたフレームが組み上がった段階で研究室内に持ち込んだので、ほとんど事後承諾のようになったのは言うまでもありません(確信犯だ ^^;)。

【長くて短い4.5ヶ月】
 そもそも製作メンバーはソーラーカーが作りたくて集まったのではなく、研究室のメンバーを製作メンバーに充てたというのが実態で、このことが良くも悪くも足枷となりました。即ち普段の研究活動をおろそかにしてソーラーカーを作るわけにはいかず、間違っても“ソーラーカーのせいで、、、”と言われぬよう、あらゆる面でかなりの気をつかいました。自ずと製作時間は土日に限られ、普段は目一杯研究に励みつつ休日も車体作りするというハードな日々が続きました。研究室の企画であるとは言えこのような状態で参加を強要することはできず、また個々に事情を抱えており、傍観する者,途中で飽きる者等様々でしたが通算して見ると常に4〜5人で作業に当たっていました。

 製作場所は予算と同じで専用のスペースなどはなく、狭くて薄暗い廊下で作業を行いました。このため、多くのソーラーカーレースで規定される大きさとは無関係に横幅は150cmと決まりました(これ以上だと出し入れできない ^^;)。

 個人的に最も苦労したのは金銭面を除けば“マネジメント”に尽きます。創造的な製作作業をしている間はそれほど苦ではなく、むしろどういう部品を作ってどこに使うか、工具は誰に何を借りるか、材料はどこで仕入れるか、いつ手に入るのか、どの順番で作業を進めるか、どうやって飽きないようにモチベーションを高めたまま作業ができるかに悩まされました。研究所には金工場があり、十分な設備が完備されていたものの上記の時間の関係で全く使用できず、歯がゆい思いもしました。但し、重要な部品を1つだけ技官の方に作っていただきました。この場を借りて深く感謝致します。形ができるまでにはかなりの失敗を経験しており、使えなくなった材料を合わせれば恐らくもう0.5台分くらいあるかもしれません。

 以上のように大変だったことは確かですが、自分の手を動かして作った部品を組み合わせて少しづつでき上がっていく過程の喜びは、おそらく体験した人でないと分からないことと思います。

【湿式太陽電池はどうなった?】
 ラ・ラ・サンシャイン計画概要でも述べましたが“色素増感型湿式太陽電池”という新しい太陽電池の研究を今年から始め、その研究成果の集大成でソーラーカーを動かすというのが理想のステップだったのですが、成果が出るのを待ち切れずにソーラーカーを先に手掛けてしまいました。現時点でのエネルギー変換効率は自称4〜5%ですが、効率の評価方法も含めて不馴れな点が多く、大っぴらに公表するのはまだ控えたいと思います。日本の第一人者が標準的な材料を用いて出された結果ではせいぜい3%と言われており、また学会で見かけた他の発表者は1%という値を報告していたことから考えると我々の値は“あやしい(良すぎる)”と言われてもしょうがないのですが、測定間違いのしようがない開放起電圧で0.8V強の値が出ているので、あながち嘘ではないのかもしれません(他者は0.5V〜0.6V程度)。

【最後に】
 長々と書きましたが、ここまで一応の目処が付いたのも周りの皆様の理解と協力があってのことです。機械工場とガラス工場の方々にもいろいろ無理をお願いしてお世話になりました。何よりもこのプロジェクトに半ば強制的に引きずり込まれて最後まで製作に携わってくれた方々に心から深く感謝しております、どうもありがとうございました。そして、本当にどうもお疲れさまでした。それから最後の最後に一言、「スポンサー募集中!」。


      1998年12月8日 (チームリーダー)内田 記
        mail_to: uchida@icrs.tohoku.ac.jp


続く