【申請計画】

研究代表者所属部局

内田 聡東北大学・反応化学研究所

助手

工学博士

研究課題名

チタン酸化物系湿式光電池の創製


研究の背景
 1976 年に SiO2 を用いた光電池が開発されて以来、今日まで太陽電池と言えばシリコンや GaAs の半導体パネルをさす状況に長くある。しかしながらアモルファスシリコンで約 12 %、結晶性シリコンで 15-25 % 程度のエネルギー変換効率を持つこれらの電池は変換効率も生産コストの面でも理論的な頭打ちに近づきつつあるのも確かである。一方で新規光電池と呼ばれる色素修飾したチタニア (TiO2) と白金電極を組み合わせた湿式の電池が近年台頭してきた。効率は研究室レベルにおける最高値でさえ 10 % と低く、寿命という点でもやや信頼性に欠ける面があるが、作用極・対極・電解質溶液・光増感材といった幾つもの材料の組合せによって様々な特性を持つ光電池を構成することができ、これからの可能性を秘めている。
 現在、湿式光電池の電極材料には主にチタニアが使用されているが、光起電力が発生するのは 400 nm 以下の紫外線に限られ、可視光は利用できない。チタニアをベースにして適当な金属や金属酸化物を加えて可視光域に吸収を持たせる試みもかなり行われたが、結果としてトータルの効率がチタニアを上回る半導体材料はこれまでに得られていない。

研究目的
 そこで本研究では、近年の表面処理技術やナノスケールセラミックス微粒子合成技術の発展の成果を取り込んで特殊な三次元構造を有するチタン酸化物系材料を電極に用い、単純な TiO2 - Pt 系では得られない可視光応答特性を持つ湿式光電池の合成を目的とする。

特色・独創性、予想される結果と意義
 「チタン酸化物」と称される一連の化合物群 (R2O・nTiO2 R=H, Na, K 他) は組成に応じて多様な結晶構造をとるが、これらの多くは準安定相である。そのため合成の難しさはもちろんのこと、本研究がめざすように電極として使用するためには薄膜化が必要となり、これに類する研究は非常に少ない。本研究では金属チタン板を表面酸化した後、水熱処理してチタン酸皮膜化させる点に特色があり、他に例を見ない。チタン酸化物の中にはナノスケールの層状構造やトンネル構造を持つものなどがあり、光吸収に有利な大きな表面粗さを確保しつつ、層構造内に光増感材として別の半導体微粒子を包接することによって可視光の効率を高められるといった点で従来の二次元的湿式光電池とは一線を隔す。色素を使用しない、安定な酸化物のみで構成されることから経年劣化の生じない優れた光/電気エネルギー変換材料としての応用が期待される。

当該研究の位置づけ
 1972 年に見出されたチタニアと白金電極によるセルが光起電力を発生する反応は Fujishima 効果とも呼ばれ、国内外に広く注目を集めた。その後可視光の変換効率を高めるため様々な色素修飾が検討され現在に至る。これとは別に、水の分解を目的とした光触媒の研究も盛んとなっており、新しい試みとして層状チタン酸などのナノ層空間を反応場として利用した光/化学エネルギー変換の研究例がある。当該研究は両者の長所を取り入れたものとなっている。