日本化学会 第86回大会 一日目(2006.03.27

 

1A5-02 京大 吉川研(基調講演)

 有機太陽電池は結晶シリコン、薄膜系に次ぐ低コスト・高効率の第3世代太陽電池として期待される。有機薄膜太陽電池の高効率化として、バルク-ヘテロジャンクションの導入による高表面積化および結晶構造の制御(貧溶媒・NMP下での結晶化)、ホールブロック層(TTIP/EtOH, 10nm)の導入、電荷輸送経路をとなる構造体(TiO2,ZnO-1D材料)の構築とドーパントによるバンド構造のコントロール等を試みている。

 

1A5-07 ペクセル(桐蔭横浜大 宮坂研)

 酸化チタン粉末の電気泳動とチタニアゾル処理により作成していた酸化チタン電極を、酸化チタン粉末とゾルの混合溶液とし低温焼成用チタニアペーストとして商品化を行った。酸化チタン粒子経の最適化(60nm+250nm, 80:20 wt%)等を経て調製したペーストは焼成温度によらず光電変換特性は一定の値を示した。経時変化では変換効率自体は変動しないものの、膜の微細な剥離によると考えられる暗電流の低下が見られた。

また、N719のカルボン酸基を置換してTBP基を4つとしたN712では、IPCEに変化は無いがVocの向上および暗電流の低下が見られ、N719よりも高い変換効率を示した。

 

1A5-10 ペクセル(桐蔭横浜大 宮坂研)

 大面積セルでは内部抵抗の増大によるフィルファクターの低下に起因する光電変換効率の低下が問題となる。そこで長尺状のセルで集電配線の導入により直列抵抗成分を大幅に減少させ、短絡電流密度と照射光強度との比例関係が示されるまでに改善された。

 作成した大面積フィルムセルは愛知万博会場にて屋外展示を行ったが、吸収波長が違うため植物の成長を阻害せず、また電池特性の低下は見られたものの1ヶ月間にわたる作動を確認できた。このとき発電量が日照量に依存するため、得られた電力は一度キャパシタへ蓄電することで安定して利用できるようにした。

 

1A5-13 九工大 早瀬研

 酸化チタン粒子またはアルミナ陽極酸化膜のナノコンポジット化によりイオンパスを形成し、イオン性液体電解液の擬固体化を試みた。今回、イオン性液体のアニオン部をBrからIとしたところ、擬固体化による短絡電流密度の低下を防ぐことが出来た。ラマンスペクトルではイオン性液体により被覆された粒子表面ではI2ピーク強度が増加し、粒子表面におけるI2濃度の増加が示された。これによりイオン拡散ではなくグロッタス機構による導電パスがコンポジット粒子表面に形成されたことが特性低下の防止につながったと考えられる。

 

1A5-15 九工大 早瀬研

 電解液バルク層を考慮した数値シミュレーションを用い、イオン性液体の最適化による高効率化を試みた。アセトニトリルに比べるとイオン性液体においては色素量、酸化チタン内での電子拡散定数、逆電子移動の速度定数などのパラメーターによる影響は小さいが、電解液中におけるイオン拡散定数が最も大きく影響することが示された。したがって電解液中のイオン拡散定数を大きくする必要があり、特に拡散定数の低下が大きな半導体薄膜のナノポア内ではイオンパスの形成による改善が検討される。※電解質はヨウ素Redoxのみで計算し、TBA等の添加効果については考慮していない。

 

1A5-17 九工大 早瀬研

 超臨界二酸化炭素(SC-CO2)による色素吸着を行うことで、浸漬処理では被覆が不十分な細孔内や粒子界面の狭部への被覆率の改善を試みた。N3色素では吸着時間を短縮、吸着量が増加し、電子拡散定数の向上および暗電流の減少が見られたことから、色素の被覆率の改善により酸化チタン内における電荷トラップおよび酸化チタンからヨウ素レドックスへの逆電子移動が減少したと考えられる。また、ブラックダイを用いた場合には吸着時間が短縮され、色素吸着量は変化しないものの開放起電圧および短絡電流密度の増加が見られた。このとき、吸収スペクトルがレッドシフトおよびIRスペクトルより、DCAの添加効果と同様に、SC-CO2では色素の会合を防ぐと考えられる。

 またSC-CO2によりブラックダイ、浸漬によりN719を共吸着することで可視領域がブラックダイより高く赤外領域がN719より高いIPCEを示し、変換効率が向上した。

 

1D3-28 ペクセル(桐蔭横浜大 宮坂研)

 電解液中のイミダゾリウム塩は酸化チタン表面に吸着し、逆電子移動を防ぐ役割を持つ。このときイミダゾリウム塩のカチオン部が大きいほどI3-の接近を阻害する効果が大きいことから、アルキル鎖をエチレンオキシドオリゴマーに置換したイミダゾリウム塩の効果について検討した。長鎖のものほど500nm以下のヨウ素の吸光減少によるIPCEの向上、暗電流の減少が示され、変換効率が向上した。また、短絡電流密度の温度依存性が見られた。

 

1D3-29 ペクセル(桐蔭横浜大 宮坂研)

 ブラックダイ、D149D102N719についてフィルム状電池の作成を行い、ガラスセルと比較したところ、フィルムでは暗電流の増加、IPCEの減少が見られた。しかし、今回用いた酸化チタン膜は膜厚や作成方法、ペーストが異なるため、これらの直接の比較はかならずしも正しくない。

 

1D3-30 ペクセル(桐蔭横浜大 宮坂研)

 キャパシタ一体型のセルについてキャパシタ側の溶媒の比較と電解質濃度の最適化を行った。内部抵抗、エネルギー密度について比較したところ、粘度が低いものほど(ANGBLPC)、また電解質が高濃度であるほど特性の向上が見られた。また、封止技術が未熟であったため、キャパシタの繰り返し特性よりもDSCの寿命が問題となっている。

 

1D3-31 東理大 荒川研

 ペクセルの低温焼成ペーストを用いて作成したフィルム電極について膜厚、加圧処理圧の検討を行った。加熱処理(150)のみを行った場合よりも加圧処理のみのセルで電池特性が向上し、製膜2回の電極に対して130MPaの加圧処理を行った電極では変換効率5.7%となった。

 

1D3-32 東理大 荒川研

 プラスチック基板(フィルムではない)を用いたセルについて焼成処理と加圧処理との比較を行った。基板は耐熱性、耐薬品性からシクロオレフィンポリマー基板を用いた。焼成処理(120170)のみを行うよりも加圧処理(80200MPa)の方が電池特性は高く、最大6.6%の変換効率を得た。また酸化チタン膜を長方形として大面積化(5×90mm)することで6.2%の効率を得た。

 

1D3-33 広島大 播磨研

 酸化チタン膜に対して0.1M LiClO4/MeCN中で電圧を印加(-1.2-1.8V)し、Liインターカレーション処理を行ったところ、暗電流の大幅な減少が見られた。色素(C343、アリザリン)担持電極では開放起電圧が大きく向上した。Liの添加量はLi0.05/TiO2が最適となり、これによる酸化チタンのフェルミ準位の上昇に起因するものと考えられる。

 

1D3-35 東理大 小浦研

 塩化アルミニウムをアニオン部としたイオン性液体EMIm-AlCl3について、電解液溶媒としての可能性を検討した。ラマンスペクトルよりI3-が検出され、EMIm-AlCl3中でもヨウ素レドックスの形成が示された。電解質が溶けにくいためアセトニトリルと混合してCV測定を行ったところ、AN5080vol%混合したときに導電率が高く、限界電流密度が高い電解液が得られた。

 

1D3-36 東理大 荒川研

 赤外光を吸収するシアニン色素N-6037についてカルボキシル基の有用性の検討、および吸着溶媒とDCA濃度の検討を行った。分子軌道計算で求めた色素のHOMOは分子全体に広いπ共役系として分布するが、LUMOはカルボキシル基周辺に局在し、酸化チタンへの電子注入効率を向上させる効果を持つと考えられる。吸着量は溶媒へのEtOHの添加により減少し、EtOH:t-BuOH1:1としたときに最も変換効率が高かった。色素の過剰吸着による会合が懸念されることから、DCA濃度30mMとすることで変換効率2.1%を得た。

 

1D3-37 東理大 荒川研

 ブラックダイを用いた場合のセル構成の最適化を行った。酸化チタン膜は散乱粒子(100nm)濃度の異なるペーストを積層して30mmとし、TBP 0.3Mとした電解液を用いることで10.3%の変換効率を得た。また、グアニジンを添加した場合には開放起電圧は増加するが短絡電流密度の低下が大きく、変換効率が低下した。

 

1D3-38 神戸大 大西研

 色素から酸化チタンへの電荷移動効率は吸着構造や吸着場所により影響されることから、ルチル単結晶(110)上に吸着したN3色素をSTMにより観察し、吸着構造および吸着サイトを検討した。N3はルチル状で明るい点として観察され、この点の高さ、および二つのアンカー基の間隔とルチル表面のTi原子の間隔より色素の立体配置を求めることができる。また、N3の密度はテラスよりステップ部、特に<001>ではない部分に高密度に吸着している様子が見られ、ステップ端のチタン原子にカルボキシル基が結合しやすいことが分かった。

 

 

1A5-43 九工大 早瀬研

 電気化学発光素子の酸化チタン膜についてNbドープ、ITO混合、表面修飾の影響を検討した。Nbでは7.6ppmITOでは50wt%を添加したときに最も輝度と発光効率が向上し、電解液-酸化チタン界面の抵抗の減少が有効であると考えられる。

 また、Ru錯体にアンカー基としてカルボン酸を導入し、酸化チタン表面の修飾を行ったところ、輝度および発光効率の向上が示された。錯体と酸化チタンが直接結合することによる導電性の改善、DSCで見られたようなカルボン酸修飾によるトラップの減少に起因すると考えられる。

 

1A5-45 東理大 荒川研1D3-37に同じ)

 ブラックダイを用いて最適化したセルについて大面積化の検討を行った。EIS測定による抵抗解析では大面積化に伴って基板抵抗が増加することから、酸化チタン膜をストライプ状とし、集電グリッドの導入によりこれを改善した。また基盤導電層の一部を削って単セル内で直列接続となるようにし、開放起電圧の向上を図ることで高効率化を果たした。

 

1A5-26 京大エネ研(招待講演)

 有機薄膜太陽電池はバルク-へテロジャンクションによりホール・電荷輸送層を分離し、電荷移動方向を決定するブロック層を導入することで高効率化への道を開いた。さらなる手法として、ポリマー内での電荷輸送材として1次元Ag粒子の添加やAg層を介した有機発電層の積層によるタンデム化、励起子の発生,移動層として作用するバクテリオクロロフィルe会合体(BChle)による近赤外吸収とアンテナ作用によるIPCEの改善、酸化チタンバリア層を導入することで電極材料(Al)や水分,酸素による有機層の劣化防止などの方法が提案される。

 

1A5-30 産総研(依頼講演)

 有機薄膜太陽電池の光電変換層は、p-n接合面が薄いことから光の利用効率向上のために接合面の拡大、再結合確率が増加する不純物の除去が必要となる。そこで共蒸着によるバルクへテロ化と昇華精製を同時に行えるガスフロー式の作成法を開発した。

 微小な光電変換層が多数存在し、これらがネットワークを形成するバルク-ヘテロ型では不純物の影響が積層型の場合より大きくなる。また、光電変換層を構成するP3HT/PCBMの混合比を1:0.7としたときにキャリア輸送ネットワークの形成による短絡電流密度および変換効率が最大となった。さらに熱処理(140, 10)を行うことで変換層内の分子相互作用と界面構造の最適化による短絡電流密度の増加、変換層-電極界面の改善による開放起電圧の増加がみられ、最大3.5%の変換効率を得た。このときIPCEは増加するが、スペクトルに変化が無いことからキャリア輸送効率が向上したと考えられる。

 

1A5-33 カリフォルニア大バークレー Frechet

 P3HT/CdSeナノロッドを用いた有機-無機ハイブリッド太陽電池について、P3HTへ官能基導入の効果について検討した。P3HT-NH2を持つことでCdSe表面と相互作用するようになり、CdSeナノロッドの分散性向上により界面が増加することで電池特性が大きく向上する。また官能基の数を増やす(2)ことで相互作用がより強くなり、導電パスの最適化による特性向上が見られた。このときP3HTの吸収スペクトルに変化は無く、ナノ粒子の分散性が作用した結果となっている。また今後の課題としてCdSe以外の無機材料を検討する必要がある。

 

1A5-35 新日石油中研

 CuPC/C60による低分子有機薄膜太陽電池を作成するにあたり、キャリア収集効率ηcc, 励起子拡散効率ηED, 光吸収効率ηAの最適化による高効率化を試みた。励起子拡散長が長いC60を用い、これらを共蒸着によりバルクへテロ化することでηEDが向上するが、光電変換層内における再結合確率が高いためηccが低下し、特に厚膜や強光度下でのフィルファクター低下が大きくなる。そこでバルク層端にηccの高い平面接合層を設け、平面-バルクへテロのハイブリッド化を行った。また、光電変換層の2セルスタック構造によりタンデム化することでηAの向上を図り、各層の膜厚最適化の後、変換効率5.7%(1.2 sun)を得た。

 

1A5-39 阪大平本研(招待講演)

 p-i-n(C60/H2PC)共蒸着バルクへテロ構造を持つ有機薄膜太陽電池の作成について検討を行った。蒸着時の基板温度を80℃とすると、H2PCの微結晶化およびC60のアモルファス化により、接触面積の拡大とキャリア輸送経路の形成による光電流の増加が示された。

 また、表面方向にp, n層を多層化した直立超格子とすることでキャリア輸送経路の分離による高効率化が期待される。ただしバルクへテロ界面に到達した励起子のみが有効であるため、励起子拡散長より最適膜厚はC60:1.7nmH2PC:4.6nmとなる。

 共蒸着中間層膜厚を130nmとし、電極材料(Au)の拡散によるリーク電流の発生を防ぐNTCDAバリア層2mmを導入することで変換効率の向上を得られた。今後、大面積化(10cm2)時の面抵抗の低減、高純度化やドーパントによる導電帯制御、超薄膜の交互積層による高効率化を検討している。

 

二日目(2006.03.28

 

2K6-10 岐阜大 箕浦研

 酸化亜鉛電極用のスチリル色素について構造の最適化を行った。ドナー部のアルキル鎖を短くしたところ、IPCEおよび光電流の増加が示された(Me>n-Hex>n-Dodec)。このとき-Meとした色素ではIPCEスペクトルのシフトから会合体の形成が示唆されるが、DCAの添加量に伴って光電変換効率が低下したことから、会合体が発電に寄与していることがわかる。カウンターアニオンはLUMOの低下と共にIPCE, 短絡電流密度が低下するため、Iが最も効果的であった(I>Cl, Br)。アンカー基は酸化亜鉛表面に吸着するためカルボキシル基を持つ必要があり、またここを介して電子移動が起きるため、炭素鎖が短いものほど特性は向上した。以上より得られた色素を用いてフィルム基板の酸化亜鉛電池を作成し、変換効率1.94%を得た。

 

2A4-37 九工大 早瀬研(招待講演, 1A5-17+1A5-43)

 超臨界二酸化炭素(SC-CO2)による色素吸着を行うことで、酸化チタン表面の被覆率の改善を試みたところ、N3色素では吸着時間を短縮、吸着量が増加し、電子拡散定数の向上および暗電流の減少が見られた。このことより色素の被覆率の改善により酸化チタン内における電荷トラップおよび酸化チタンからヨウ素レドックスへの逆電子移動が減少したと考えられる。また、ブラックダイを用いた場合には吸着時間が短縮され、色素吸着量は変化しないものの開放起電圧および短絡電流密度の増加が見られた。このとき、吸収スペクトルのレッドシフトおよびIRスペクトルより、DCAの添加効果と同様に、SC-CO2では色素の会合を防ぐと考えられる。

 また、Ru(bpy)3を担持したセルでは電荷注入により発光素子となり、ナノポアを利用することで電子注入効率の向上、および散乱効果により輝度が増加する。さらに酸化チタン膜はNbドープやITO混合により輝度と発光効率が向上し、電解液-酸化チタンの界面抵抗の減少が有効であると考えられる。また、Ru錯体にアンカーとしてカルボン酸を導入し、酸化チタン表面の修飾を行ったところ、輝度および発光効率の向上が示された。錯体と酸化チタンが直接結合することによる導電性の改善、DSCで見られたようなカルボン酸修飾によるトラップの減少に起因すると考えられる。

 多孔質電極として細孔径の異なるアルミナ陽極酸化膜を用いた場合、細孔径が小さいほど輝度が向上する。発光の時間応答を調べるとRu錯体の拡散速度の違いによる2種類の発光機構が存在することが示されており、細孔径の小さな半導体電極を用いると対抗電極間の拡散では無く、ナノポア内の界面での拡散による発光成分が増大していることが示された。

 

2A5-44 東大 瀬川研(依頼講演)

 キャパシタと色素増感太陽電池との一体化により低コスト、省スペース化、また日照量の影響を受けない出力の安定化が期待される。電荷蓄積電極としてポリピロールPPyの電解重合膜を使用し、PPyの重合量によりCV特性の制御をすることで充放電特性を向上させることができる。低抵抗のセパレーターとしてNafionをキャストすると充電電気量とセル電圧が改善されるが、PPyの充放電に伴う伸縮により繰り返し特性が大きく低下していく傾向があるため、PPy膜へNafionのドープ・カチオン交換を行うことで出力を安定化した。

 また、ガラス基板の代わりにPPyとの親和性も良好なステンレスメッシュを用いると、電極表面積の増加およびCVの酸化還元電位のカソードシフトにより充電電荷量が向上するほか、PPy膜の厚膜化が可能となり、充電電気量の増加および開回路電圧の安定性が向上した。

 

2A5-47 京大 吉川研

 酸化チタンを導電帯準位が高い他の酸化物により被覆し、逆電子移動を抑制することを目的として各種酸化物の添加を検討した。光電変換特性評価の結果、酸化チタンの表面欠陥濃度(Ti3+)と開放起電圧の変化との間に相関が見られたことから、酸化物の添加は色素吸着サイトに変化を及ぼし、色素の被覆状態の変化による逆電子移動の増減を生じていることが示唆される。またZrGeによる被覆において特性が向上したことから、これらについて表面積および吸着色素量をもとに添加量を最適化し、特にTiO2-ZrO(95:5)では光電変換効率7.14%を得た。

 

2A5-49 京大 吉川研

 多孔体電極内における電子移動は粒界面における抵抗の影響が大きいことから、基板電極上で一次元半導体を垂直方向に配列し、より効率的に電気伝導を行える集電電極を検討した。基板上の種結晶に水熱合成により調製した単結晶ZnOナノウィスカでは処理回数に伴って長くなるが(=厚膜化)、外径方向の成長による細孔の減少が起きるため、処理回数が2回(膜厚24mm)のときに変換効率が最大となった。また、バルクの繊維状ZnO電極と比較すると、吸着色素量あたりの光電流発電量が増加していた。

 

2A5-31 名工大 曽我研

 ショウノウを前駆対としたイオンビームスパッタリングにより作成したカーボン薄膜では、吸収端エネルギーはSP3割合に比例し、スパッタリング出力と基板温度により制御され、n型半導体となる。一方、CVDで作成した薄膜はp型となり、これらを積層した太陽電池で光電変換効率2.28%(膜厚85nm)を得た。また、CVDによるp-C/n-Siの積層では、カーボン層の導電性や半導体特性がRF出力と温度に依存し、Bドープにより量子効率が向上する。C60中間層を設けることでpin構造となり、電池としての作動を確認した。

 

2A5-34 豊田中研

 ドナー-アクセプター連結分子(D:ポルフィリン, A:C60)は酸化チタン上に吸着するとIPCEが大きく向上することから、C60にアンカーとなるカルボキシル基を導入し、光電変換特性についてポルフィリン(TCPP)単体の場合と比較した。CVでは色素の励起・失活過程の変化によりTCPPとは異なるピークが示されるようになり、酸化チタン上に担持した時の蛍光寿命は酸化チタンへの電子移動の増加によりTCPPより寿命は短くなった。またUV-visおよびIPCEスペクトルではピーク強度は低下するものの、長波長領域でよりブロードなピークを示した。I-V曲線では短絡電流密度が低下したが、開放起電圧およびフィルファクターの増加により光電変換特性はほぼ同等の値を示した。しかし吸着色素量あたりの発電量を比較するとD-A連結分子の方が高く、光増感能が高いといえる。

 

2A5-37 豊田中研

 Ru色素のビピリジン環の一方(L配位子)について骨格変換(N導入, 複素環化)と官能基の導入により高効率色素の探索を行った。粗製段階での光電変換効率と配位子の配位力から推定される性能を元に比較すると、ビピリジン環へのフェニル基を介した電子供与性基(-OMe)の導入が有効であることが示された。フェニル基およびメトキシ基の数を変えてさらに精製した色素について検討すると、ピリジン骨格上および置換位置の炭素の電子密度により色素のHOMO準位を制御できることが示され、また、分子軌道計算による予測が可能となった。以上により得られた色素では、いずれもN71911.l倍の光電変換特性を得ることができ、簡易選択手法により配位子の探索が容易に行えることが示された。

 

2A5-40 京大 吉川研

 部分的にナノワイヤーを含むことにより酸化チタン電極の光電変換効率の改善を試みた。水熱処理時間を短縮(10M NaOH, 150,72h24h)した試料では粒子とナノワイヤーが混在し、また熱処理(650,4h)後にも構造自体は安定することが示された。これを電極材料とすると光電変換効率は6.01%となったが、ナノワイヤー分散量の制御が困難であることから、続いて水熱合成(120h)後の熱処理により結晶相の異なるナノワイヤー(TiO2(B):400,2h, アナターゼ:700,2h)を調製し、これとナノ粒子との混合による複合化を試みた。

 いずれのナノワイヤーを用いた場合にもP25に対する添加量を10wt%としたときに最も光電変換効率は最大となり、またTiO(B)よりアナターゼを用いた場合により高い値が得られた。アナターゼはBよりも伝導性が高く、また電極中のアナターゼ相の割合が増加することに由来すると考えられる。また、部分ワイヤー化した試料について合成条件の最適化により高表面積化して10wt%P25に添加したところ、光電変換効率は7.3%となった。

 

三日目(2006.03.29

 

3F6-28 新潟大 八木研

 Ptコロイドの表面クエン酸修飾によりITO上に自己集積膜を形成し、CVにおけるプロトン還元反応により評価した。還流時間が長いほど平均粒子径は大きくなり、それに伴ってプラズモン共鳴に由来する270nmの吸光ピークが減少した。またITO上へはクエン酸を介したエステル結合により吸着し、吸着量はコロイド溶液のpH、浸漬時間、濃度により制御可能であった。

 コロイド膜上での水素発生反応はpHの影響を受け、3.5以上ではヒドリド生成による水素還元、3.5以下では吸着水素のカップリング反応となるため還元電位が増加した。また、コロイド集積膜の触媒活性はPt-black電解析出膜やPt-deposit膜よりも高くなったが、コロイドの還流時間が50分のときに最大となり、コロイドが未成長や過成長の場合には活性が低下した。

 

3F6-30 新潟大 八木研

 クエン酸修飾Ptコロイド集積膜の色素増感太陽電池用対極への使用について、Pt-black電極、Pt-deposit膜と比較・検討した。コロイド集積膜は他の電極より小さな粒子で均一に形成され、平滑で緻密な膜となっていた。ヨウ素溶液中でのCV測定では他の電極に比べて、コロイド電極でピークが明瞭に現れ、大きく低電位側へとシフトしたことから非常に触媒活性が高く、またインピーダンス測定により電荷移動抵抗が非常に小さいことが示された。これらの電極を色素増感太陽電池の対極として用いたところ、短絡電流密度およびフィルファクターが大きく改善され、他の電極より高い光電変換効率(Pt-black:3.8%, Pt-deposit:5.7%coloid:7.5%)を示した。これらは主に基板ITOPt層との接触の改善に由来すると考えられる。

 

3S9-06 九工大 早瀬研(特別講演, 1A5-13参照)

 色素増感太陽電池の電解液に用いるイオン性液体をナノ粒子表面で自己組織化させることにより、イオン性液体の擬固体化およびイオンパスの形成を試みた。このとき、イオン性液体はアルキル鎖が長いほどより緻密で均一な被膜を形成し、またカウンターアニオンにヨウ素を用いることで擬固体化による短絡電流密度の低下を防ぐことが出来た。ラマンスペクトルではイオン性液体により被覆された粒子表面ではI2ピーク強度が増加し、粒子表面におけるI2濃度の増加が示された。これによりイオン拡散ではなく、グロッタス機構による導電パスがコンポジット粒子表面に形成されたことで特性低下が抑制されたと考えられる。また、アルミナ陽極酸化膜の細孔をイオン性液体により被覆して用いるとイオンパスが直線的となるため、擬固体化前よりもヨウ素拡散係数が高くなった。

 

3S7-06 宇部興産(特別講演)

 機能性金属錯体は分子を構成する金属イオンと配位子でその機能性が決定され、単一の分子に独立した素子に似た機能を持たせることもできる。色素増感太陽電池の色素に求められる機能として高い吸収係数、電子授受が容易なレドックス準位、半導体表面へ固定するためのアンカー、広域にわたる吸収波長帯などがあげられる。このような物質を効率よく調製するうえで計算化学は大きな力となり、特にHOMO-LUMOの設計は分子軌道計算により高精度で予測され、さらに実際に合成して得られた結果をフィードバックすることで計算精度を上げることができる。また、マイクロ波を用いた加熱プロセスを導入することで迅速、均一に短時間で加熱できるほか、選択的に反応させることで高純度化も容易となる。