電気化学会 第73回大会 一日目(2006.04.01)

 

1I03 慶大 山元研

 有機ELでホール輸送材として使用されるフェニルアゾメチンデンドリマーはシェル効果により電子の拡散を防ぐことから、酸化チタン電極表面の被覆による逆電子移動の防止について検討した。デンドリマーの粘度は一定の世代以上でほぼ飽和し、またSnCl2を添加することでキャパシタンスの減少により抵抗が小さくなることが示されている。これにより被覆した酸化チタン電極ではデンドリマー世代に比例して開放起電圧が増加し、変換効率が大きく向上した。ヨウ素電解液中でのCVではヨウ素レドックスのピークが減少していたことから逆電子移動を防いでいることがわかる。現在、デンドリマーの収率の問題から第5世代までの検討となっているが、より高い世代のデンドリマーを用いればさらに高効率化する可能性がある。またTBPとの比較や併用については今後の検討を予定している。

 

1I04 北九州高専

 タンデム加速器を用いたS, N導入により酸化チタンのバンド準位の制御を試みた。イオンの注入量は時間に比例し、電池特性では開放起電圧がわずかに低下したが、短絡電流密度の増加により変換効率の向上(5.55.7%)を得た。XPSスペクトルではTi-NピークおよびTi2pピークのブロード化のほか、アミンやイミド由来のピークが示された。O欠陥およびN2pの準位が新たに形成されたことでバンドギャップの低下とキャリアの増加が起きたと考えられる。IPCEは未測定だが、添加量が微小であるため、変色や可視応答が生じるほどの吸収端の変化は見られない。吸着色素量にも変化は無いため、酸化チタン自身の変化に起因すると考えられる。

 

1I05 北九州高専

 Ar中でのプラズマスパッタリング処理による酸化チタン電極への影響について検討した。平均粒径30nmの酸化チタンに対して300Wのプラズマ処理を行ったところ、処理時間5分で短絡電流密度が最大となり、色素吸着量の増加していた。このとき、XPSではO1sピークがブロード化したことから表面での-OH基の形成が示唆され、またAFMでは表面粗度が処理時間に伴って増加した後に平滑化していた。プラズマ処理により表面に生じた酸素欠陥がOH基となり、色素の吸着が増えたことで効率が向上したと考えられる。

 

1I06 東理大 荒川研

 クマリン系色素NKX-2677について酸化チタン膜厚、散乱・反射層の導入と40mM DCAの添加によりセルの作成条件を最適化した。さらに赤外吸収を持つNKX-6037を共吸着することでIPCEはブロードなピークを示したが、開放起電圧の低下により変換効率は低下していた。

 

1I07 東理大 荒川研

 N719のビピリジン環の二つのカルボキシル基をC9H19に置換することで疎水性が大きく、耐久性・安定性に優れるとされるN520について、使用条件を最適化(膜厚 40mmDCA 40mMTBP 0.5M)した。続いて50vol%の水を注入した電解液中での安定性を検討したところ、N719では徐々に短絡電流密度が低下したのに対し、N520では300時間にわたり安定した性能を示した。酸化チタン表面でアルキル基を電解液側に向けた吸着状態となることで酸化チタン膜が疎水性を示し、N719の様な溶出がなかったことが理由と考えられる。

 

1I08 東理大 荒川研

 水熱合成により得た酸化チタンコロイドペーストを加圧処理によりフィルム基板上で酸化チタン電極としたところ、加熱処理(150)よりも高い電池特性を得た。処理圧を100MPaとしたときに効率は最大となり、XRDでは高温焼成と同様に半価幅が減少したことから粒径の成長が考えられる。また、溶媒をエタノールから水に変えたことで溶媒中での分散状態が変化し、熱処理よりも加圧処理に適したペーストとなったと可能性が考えられる。

 

1I09 ペクセル(桐蔭横浜大 宮坂研)

 ポリアニリンにより表面被覆したカーボン(PACB)をイオン性液体EOIに分散し、擬固体電解液として用いた。PACB10wt%で粘度、密度が最適となる。このとき集電極として作用するCBと酸化チタンの距離が接近することで短絡電流密度が、また、PAの整流作用およびホール輸送作用によりフィルファクターと開放起電圧が改善され、光電変換効率は4.07%を示した。このとき細孔内に擬固体化電解液が進入できないため、イオン輸送による電荷伝達が必要になるはずだが、ヨウ素を添加すると効率低下が示され、原因については今後の検討となる。

 

1I10 ペクセル(桐蔭横浜大 宮坂研)

ペースト粒径の最適化と4TBP色素(参照→日化1A5-07

 

1I11 ペクセル(桐蔭横浜大 宮坂研)

集電法の改善と万博での展示(参照→日化1A5-10

 

1I12 ペクセル(桐蔭横浜大 宮坂研)

 キャパシタ一体型セルについて、蓄電部の活性炭層の作成法について比較したところ、プレス処理により作成すると接触の改善により内部抵抗が減少し、キャスト法により作成した膜よりエネルギー密度や充放電特性が向上した。また電解液溶媒と電荷質濃度の最適化を行った。(参照→日化1D3-30

 

1I17 近畿大 椿原研

 無定形酸化チタン(TA-5,日産化学)による酸化チタン薄膜の光電変換特性について焼成温度の影響を検討したところ、300℃で吸着色素量が増大し、また250450℃の範囲で短絡電流密度および光電変換効率が向上した。このときのインピーダンス測定より内部抵抗の減少が見られ、結晶性の向上が作用すると考えられる。

 

1I18 東京工芸大+ペクセル(桐蔭横浜大 宮坂研)

 臭化鉛ペロブスカイト化合物CH3NH3PbBr3は光電子放出時の仕事関数測定からHOMO:-3.25eV, LUMO:-5.27eVとなることから、酸化チタン上に自己組織化により担持して光電変換特性を測定した。IPCE500nm以下で50%程度となり、光電変換効率2.19%と比較的良好な値を示した。しかし電解液中でBrIの置換反応が起きており、この影響については今後の検討となる。

 

1I20 静岡大 奥谷研

 DBTDAおよびTBTを原料としてSPD法により導電膜を二層化し、下層の結晶構造に従った二層目の大粒子化により、DBTDA膜の電気的・光学的特性を維持しつつ表面形態の制御を検討した。このとき、二層目のTBTSPDの処理時間と共に平滑化して特性が低下したが、SnCl2の添加により100200nmの均一粒子となり、凹凸がある方が電池特性が高くなった。表面形態と導電層-酸化チタン界面への影響についての検討が必要となる。

 

1I22 東理大 荒川研

 フィルム状セルの封止として熱圧着を行うと、加熱温度と処理時間に比例して変換効率が低下した。そのため熱圧着を必要とするACFは集電材として適さず、また膜が厚い場合には電通が確保できないため、金属線を集電材として用いた。酸化チタン膜をストライプ状とし、集電線の配置により3直列とすることで4.5×9mmの大面積セルにおいて6%の変換効率を得た。

 

1I23 東理大 荒川研

 ブラックダイ使用時の膜厚とTBP濃度および大面積化(参照→日化 1D3-37,1A5-45

 ※光量の校正:350900 nm

 

1I24 東理大 荒川研

 ブラックダイにジケトナート基を導入し、赤外領域の吸収増加による高効率化を試みたところ、HOMOおよびLUMOの準位の変化によりヨウ素レドックスからの電荷注入が遅れるために色素の再生速度が遅くなる。そこで、電子吸引性のFをジケトナート基に導入することでこれらの準位を制御し、またTBP濃度、酸化チタン膜厚を最適化することで9.1%の光電変換効率を得た。

 

1I25 岐阜大 箕浦研

 TTIPゾルとP25からなる酸化チタン膜の低温形成プロセスとしてUVオゾン処理を行ったところ、焼成(450,30)した場合に比べて光電変換効率は低かったものの開放起電圧およびフィルファクターが高く、また未処理の場合に比べてIPCEおよび短絡電流密度が大きく改善した。IMVS, IMPSにおいて電子寿命が長く示されたことから、電子密度の増加による開放起電力が増加、また、電子寿命と電子拡散時間の差が大きくなったことから拡散距離および補修率が改善し、IPCEが増加したと考えられる。

しかし、以上により作成した電極膜では5mm以上となると短絡電流密度および変換効率が飽和してしまう。そこでP25に変わり、小粒径のAMT100を用いて色素吸着量を増加させたところ、変換効率4.55%を得た。

 

1I26 岐阜大 箕浦研

 電解析出により作成したZnOワイヤー電極は結晶性が高く、またIMVS, IMPSより電子拡散長が膜厚以上となって電子・ホール輸送性が高いため、特に光量が弱い場合にも照射強度に比例した発電を得ることができる。D149を用いることで光電変換効率5.2%となるが、ZnO上ではJ会合体が未形成となるため650nm以上の光は利用できず、膜自体の透過性も高くなっていることから、これらを有効活用できる色素しだいで容易に高効率化できる可能性がある。

 

1I27 岐阜大 箕浦研

 ZnO電極の電解析出機構について色素吸着レートおよびZnO析出レートの分析により膜組成の変化を検討した。析出反応時のI-V測定よりEY-1.1Vで還元体、-0.8Vで酸化体となって反応中の挙動が変化し、酸化体では吸着レートがほぼLangmuir型となって色素濃度に比例、還元体では常に一定の確率で吸着することが示された。以上からEY/ZnO組成比や空隙率の予測・制御が可能となる。また、色素の吸着はZnO表面への選択的吸着による特定方向へのワイヤーの成長、色素の作用に依存しない電流値の増加に伴ったZnO析出量の増加などの現象としても影響を及ぼしている。

 

1I28 東大 瀬川研

 キャパシタの一体化によるエネルギー貯蔵型色素増感太陽電池(参照→日化2A5-44

 

1I29 京大 江口研

 色素吸着後の電極にAl-sec-ブトキシドによるアルコキシド処理を行うことにより、色素から酸化チタンへの電子注入効率を損なうことなくバリア層を設ける方法を検討した。このとき、アルコキシドの濃度および処理時間によらず開放起電圧が向上したが、処理時間が長くなると短絡電流密度の低下が見られた。電解液中にTBPを含まない場合にも開放起電圧は高い値を維持し、暗電流も低下したことからアルコキシド処理が逆電子移動を防止していることが示唆された。また、インピーダンス測定では電極-電解液界面の抵抗成分の増加、IRスペクトルではアルコキシドと色素のカルボキシド基との相互作用している様子が観察された。従って、アルコキシドは酸化チタン-ヨウ素間の逆電子移動を防ぐ一方で、色素と結合することでヨウ素との再生反応をも阻害し、電子注入効率を低下させている可能性がある。

 

1I30,31 京大 足立研

 KernらおよびBisquertらのインピーダンス測定のナイキストプロットのモデル式はそれぞれ異なる仮定により導かれているが、いずれも実際の測定結果と高い精度で一致している。Kernらの式で考慮している電子のトラップ現象をトラップ電子の拡散および逆電子反応として置き換えると二つのモデルは等価となることから、これらを解き、また対極界面および電解質の拡散のインピーダンスを加味して測定結果をフィッティングすると、セル中の電子の移動・拡散に伴う抵抗成分や速度定数を求めることができる。

 実際の測定結果への適用では、照射光強度、酸化チタン膜厚、TBPの添加、I2濃度、電極材料(チタニアナノワイヤー)など、それぞれがセル中のどの抵抗成分や電荷移動に効果を及ぼしているかを数値により知ることができる。特に高効率セルでの場合について検証すると、電子拡散係数が大きく、逆電子移動速度定数が小さくなることで電子寿命が長く、また全体の直列抵抗が減少することでフィルファクターが大きくなる必要があることが分かった。逆電子移動の速度定数を小さくすると反応抵抗が大きくなるため直列抵抗の増加に繋がるが、モデル式中の各値の関係より酸化チタン中の電子密度を大きくすることで解決でき、高効率化が可能であることが示された。

 

1I32 島根県産業技術センター+阪大 柳田研

 開放起電圧とフィルファクターを改善する場合、酸化チタン膜を薄くする必要があるが、吸着色素量の減少により発電効率の低下が懸念される。そこでビピリジル環に吸光係数の高いπ共役系と色素の脱離を抑制する長鎖アルキルからなる官能基を導入した色素HRS-01を合成した。HRS-01ではモル吸光係数およびIPCEが増加し、短絡電流密度が増加することで変換効率9.5%を得た(N1799.0%)。また酸化還元電位よりHRS-01N719よりも酸化されやすいことが示され、電子注入効率の向上が示唆される。

 

1I33 阪大 柳田研

 未焼成電極における電子拡散係数および電子寿命とI-V特性との関係について考察した。測定の結果、未焼成電極では焼成(450)後の電極よりも電子拡散係数は小さく、電子寿命は短いが開放起電圧が高くなった。開放起電圧を決定するフェルミレベルはトラップの密度と分布に影響されるが、未焼成膜ではトラップが少なく、導電帯準位の低下が抑えられることで開放起電圧が高く、一方、トラップが減少すると導電帯に電子が存在する時間が短く、速やかに移動することで電子寿命が短くなる。このとき拡散係数が大きくなる傾向があるが、未焼成膜では界面で拡散されて導電性が悪く、電池特性が低下していると考えられる。そこで、電子寿命が長くなるように膜を厚くしたところ、未焼成膜でも変換効率3.5%を得ることができた。

 

1I34 産総研+東理大 阿部研

 クマリン色素では暗電流が流れ易く再結合が起こり易いため、Ru色素よりも開放起電圧が低くなる傾向がある。IMVS, IMPSでは、色素を担持した酸化チタン電極の電子拡散係数は色素にほぼ同じとなるが、電子寿命はクマリン系の方がRu色素より短くなった。

有機色素では電子の授受に寄与するLUMO以外に導電体準位よりも低位に三重項準位を持つ場合があり、クマリン色素は構造中にチオフェンを持つことからも、光照射下でこの三重項を介した電子の逆移動が起き易くなっている可能性がある。またTBPを添加すると電子寿命がわずかに低下するがVocは大幅に向上していることから、これは導電帯準位自体が変化していると考えられる。

 

1I35 信州大 鈴木研

 n型半導体である酸化チタン電極とのタンデム化により高効率化を期待されるNK2684, C343/NiOによるp型電池について律速過程の解明を試みた。NiOについて電子拡散係数と電子寿命を測定し、ホールの寿命と拡散係数を求めたとこ十分な寿命と移動度を持つことが分かった。しかし、本来ヨウ素レドックスへ移動すべき電子が色素のHOMOからNiOの価電子帯への移動が比較的多く、これが電荷の再結合による効率低下の原因となっていることが示された。

 

1I36 東工大 井原研

 銀ナノ粒子を担持した酸化チタン電極上に色素を吸着したところ、担持した銀の粒経(4,12nm)によらず担持量に伴って吸光度が増加、IPCE2倍近く向上し、また、ピークのブルーシフトが見られた。銀を腐食しないCo錯体を電解液として、また銀粒子表面の修飾にチオールを用いているが、これら単体ではIPCEおよび吸光度の増加やピークの変化を示されないことから、これらが銀ナノ粒子に由来するものであることが示される。

 

 

二日目(2006.04.02)

 

2I01 静岡大 昆野・藤波研

 SnO2電極における酢酸亜鉛処理の順序と効果について、色素溶媒の影響を検討した。色素溶媒を水+EtOHとした場合、後処理によりEYが溶出するが開放起電圧は向上していることから、酢酸亜鉛が逆電子移動を抑制することが分かる。また溶媒をEtOHのみ、t-BuOH/AN(1:1)とすると、前処理を行った場合にEYの吸着を促進し、変換効率が最大となった。これより酢酸亜鉛は電極表面でZn(OH)2となり、色素吸着サイトを形成している可能性が示唆される。

 

2I02 静岡大 昆野・藤波研

 クマリン色素NKX2677およびインドリン色素D102を用いた固体型セルに対し、酢酸マグネシウムMgA処理の効果について検討した。処理の結果、開放起電圧が向上することから、逆電子移動が抑制されていることが分かる。クマリン色素において前処理として行った場合には短絡電流密度の増加より色素吸着量の増加が示され、また、IPCEMgA塩と同じくブルーシフトを示したことから、色素はMgAを介して吸着する可能性が示唆される。一方、インドリン色素では処理により吸着量が増加したにもかかわらず、短絡電流密度が大きく低下しており、色素の会合状態への影響が懸念される。

 

2I03 九工大 早瀬研

 イオン性液体電解液のポーラスアルミナによる擬固体化(参照→日化1A5-13, 3S9-06

 

2I04 九工大 早瀬研

 超臨界CO2による色素吸着の促進と色素の共吸着(参照→日化1A5-17

 

2I05 九工大 早瀬研

 ナノポア電極を用いた発光素子の高効率化(参照→日化2A4-37

 

2I06 九工大 早瀬研

 基板FTO層の研磨処理の効果として、凹凸の減少による緩衝層の平滑化およびその上に作成する酸化チタン層との密着性の向上が考えられる。また、基板中にはFTO前駆体由来の塩素が過分に残留しているが、これが研磨により削り落とされることで酸化チタン膜中へ拡散する絶対量が減少、また研磨剤(アルミナ)が粒界に残留することで塩素の拡散を防いでいる可能性がある。

 

2I07 名大 鳥本研

 CdSe,CdSナノ粒子を水熱合成により多孔質ZnO電極上に担持し、増感剤としての特性を評価した。生成したCdSeは六方晶単結晶となり、Cd2+と還元剤(3-メルカプトプロピオン酸)との濃度比によって粒経が変化していた。これにより粒形に基づいた吸収端の制御が可能となり、IPCEは最大80%を得ることができた。また、ZnSにより電極膜を被覆することで、Cdナノ粒子の光溶解を抑制し、吸収スペクトルに影響することなく安定化することができた。実際のセルの構築と電池特性の評価、およびCd以外の安全性の高い材料への置換が今後の課題となる。

 

2I08 阪大 桑畑研

 CdClO4Na2S溶液への浸漬を交互に繰り返すことによりCdS、またはPbSを担持した酸化チタン電極を作成した。吸収スペクトルではいずれ電極も処理回数に伴って吸収端が長波長側へとシフトし、また、XRDでは正方晶のピークがしだいに強く示されるようになった。通常、CdSはヨウ素電解液中では光溶解を受けるが、NaSCNの添加により多段階電子移動反応とすることで安定性、性能が向上し、理論上N719以上の変換効率を得られるIPCEスペクトルが示された。

 

2I09 阪大 桑畑研

 モノマーを酸化チタン上で光重合させた導電性高分子(2,2’-ビチオフェン-5-カルボン酸)を増感剤としたセルの電池特性を評価した。重合時の光電流を観測すると時間に伴って電荷量が増加し、重合量の増加により吸収スペクトルの吸収端は長波長側へとシフト、またSEMでは細孔内まで被覆されている様子が観察された。しかしIPCEは電荷量20mC/cm2程度の重合で最大となり、ポリマーが細孔を埋め尽くすことで電解質のパスが失われていると考えられる。そこで電解液との親和性がより高い3,3’-ジメチル-2,2’-ビチオフェンをモノマーとするとIPCEは大きく改善され、変換効率0.15%を得ることができた。

 

2I10 東大 橋本研

 水熱合成により基板上に垂直に成長させたZnOナノロッド上にMDMO-PPVをスピンコートして有機薄膜太陽電池とした。ZnOナノロッド層は基板上にコーティングした種結晶から成長することで結晶性が高く、また長さは処理時間による制御が可能であった。光電変換特性はナノロッドを有することで短絡電流密度およびIPCEが飛躍的に増加し、変換効率が10倍以上(0.013%0.16%)となった。また、IPCEはロッド長に比例して増加することから厚膜化が可能となり、ロッドを介することで効率的に電荷分離および輸送が行われていることが示された。

 

2I11 東大 橋本研

 オレイン酸をテンプレートとしたゾル-ゲル法によりITO基板上に直径4nm、長さ40nmの単結晶からなるTiO2ナノロッドを形成した。これをMEH-PPVにより被覆して光電変換特性を測定したところ、フラットなTiO2層を導入した場合に比べてフィルファクターが高い値を維持したまま短絡電流密度およびIPCEの増加が見られた。TiO2ナノロッドが励起子の輸送経路として作用し、再結合確率が低下するため厚膜化が可能となり、変換効率が増加したと考えられる。

 

2I12 阪大 松村研

 Cuフタロシアニン/C60有機薄膜太陽電池のアクセプター-カソード界面にバッファー層(BCP)を導入したところ、短絡電流密度、開放起電圧、フィルファクターすべてが向上した。インピーダンス測定より求まるC60の実効膜厚からカソード金属粒子の進入深度がわかるが、BCP層がある場合にも深度は変わらなかった。このことよりBCPは蒸着時のC60層の熱ダメージを軽減、あるいは侵入した粒子表面を被覆することで電荷取り出し効率を向上していると考えられる

 また、有機薄膜層に熱処理(140,15min)を加えると開放起電圧が低下するが、短絡電流密度およびフィルファクターが増加し、光電変換効率が向上した(0.31.0%)。このとき表面にはTPDの凝集に由来する200300nmの凹凸が生じ、また断面ではTPD/C60界面に中間層が見られることから、接触面積が増加した新たなバルク-ヘテロ構造が形成されることで特性が向上したと考えられる。

 

2I17 京都工繊大 小林研(特別講演)

 光触媒による水の分解について、バンドギャップが理論値1.23eVに近づけば最大限の可視光利用が得られる。このとき、導電帯のエッジは変化しにくいため価電子帯を押し上げる方が有利となるが、このような物質は平面波基底DF法による軌道計算を元に組成・構造を設計できる。実際にこの方法によるTiO2CdSなど各種の光触媒のバンド計算を行うことで、また価電子帯の押し上げがあるBiVO4, PbMoO4などについて各々の元素の軌道と混成のパターンについて計算結果を参照すれば、より優位な触媒の設計できる可能性がある。また、平面波基底DF法では三次元のバンド計算を行うため、バルク内の電子・ホールの反応サイトや基質との反応過程への応用や展開が期待される。

 

2I19 桐蔭横浜大 村上氏(本田・藤嶋賞受賞講演)

 色素増感太陽電池の普及には材料、プロセスの低コスト化による電力単価の低減が必須であり、フィルム基板を用いた酸化チタン電極の低温焼成技術が求められる。泳動電着により成膜した電極にCVD処理およびTTIPUV照射による加水分解処理を行ったところ、泳動電着のみの場合より開放起電圧、短絡電流密度が増加し、変換効率3.8%を得た。CVD/UV処理により生成した酸化チタンはアモルファスであり、粒子間の結合強化および電解液との界面における電荷再結合を防止するものと考えられる。

また、照射光強度に依存した発電量の変化を安定化させるため、キャパシタとの一体化を試みた。蓄電層として活性炭を用いたが、そのままでは多孔質酸化チタンとの接触が悪いため、LiIを添加することで充電容量および放電電圧が向上、また三極式とすることで発電層-蓄電層の界面に由来する内部抵抗を低減し、さらにエネルギー密度を増加することができた。